伊藤貫先生に学んぶ国際社会学ノート
はじめに―
国際政治・国際社会の見方を、米国、中国、日本および関係諸国の国家観・安全保障観・勢力均衡の論理という観点から再構成した学習報告書である。
全体構成
- 米国の「一極覇権戦略」の崩壊と多局化する世界
- 米国の軍事介入を歪める国内政治と「アニムス・ドミナンディ」
- 東アジアにおける軍事バランスの劇的変化:ミサイル・ドローン戦力と迎撃の非対称性
- 崩壊している「米国の核の傘」と日本の不正直な安全保障論
- 中国の「五段階グランドストラテジー(1969〜2017〜現在)」
- 国際政治の冷徹な原則:バランス・オブ・パワーとツキディデスの罠
第1章:米国の「一極覇権戦略」の崩壊と多局化する世界
1.1 国際政治の本質:過去500年の「多局構造(マルチポーラー)」
歴史上の覇権主義とその失敗(ハプスブルクからヒトラーまで)
現在の世界情勢がこれほどまでに混沌とし、流動化している最大の原因は、1991年から1992年にかけてアメリカ政府が策定した「国家戦略プラン」が大失敗に終わったことにあります。
日本の大手マスコミやテレビ報道にはほとんど載りません。しかし、アメリカの外交専門、あるいは軍事政策専門の主要な学会誌や、信頼できる超一流シンクタンクが発表している論文集には、極めて客観的な事実として、きちんと掲載されている内容です。
そもそもアメリカ政府は、1991年から1992年にかけて、「国際政治の本質」を完全にミスジャッジ(誤認)してしまったのです。
過去500年間の国際政治の歴史を振り返ると、その基本構造は常に「マルチポーラー(多局構造)」でした。 この5世紀の間、特定の国が世界唯一の超大国として君臨しようと試みた歴史が何度もありました。
17世紀初頭のハプスブルク帝国(カール5世など)
17世紀後半のフランス王国のルイ14世
19世紀初頭のフランス帝国のナポレオン・ボナパルト
20世紀初頭のドイツ帝国のヴィルヘルム2世
20世紀半ばのナチス・ドイツの指導者ヒトラー
彼らは皆、世界制覇を企てました。自分たちだけが世界で唯一の「スーパーパワー(超大国)」となり、世界最強の覇権を握って、他のすべての国家を屈服させようとしたのです。しかし、ハプスブルクも、ルイ14世も、ナポレオンも、ヴィルヘルム2世も、ヒトラーも、例外なく全員が失敗に終わりました。
冷戦終結後の米国の慢心と「歴史の終わり」という幻想
世界を「一局化(ユニポーラー)」し、自分たちだけが圧倒的な強者となり、世界の絶対的な支配者として他のすべての国々を命令に従わせようとする思想を「一局主義(ユニポーラー・ヘジェモニー)」と呼びます。しかし、過去500年間の歴史が示す通り、一局による世界制覇という傲慢な戦略案は、すべて破綻してきたのです。
それにもかかわらず、1989年にベルリンの壁が崩壊し、1991年末にソ連帝国が自壊したとき、アメリカの政治エリートや指導者たちはすっかり舞い上がってしまいました。得意の絶頂に達したペンタゴン(国防総省)、国務省、そして民主党・共和党の二大政党は、「これでアメリカが世界唯一の完全な勝者であり、永遠の絶対的支配者であることが確定した」と確信してしまったのです。
その当時、日系アメリカ人の政治学者であるフランシス・福山というおバカな人物が、『歴史の終わり(The End of History and the Last Man)』という本を書き、「ついに歴史は終わった。自由民主主義と資本主義を掲げるアメリカが世界中を支配する、これ以上の歴史の発展は存在しない」というおめでたい妄想を提唱しました。アメリカ政府は、この「一極覇権戦略(ユニポーラー・ヘジェモニー・ストラテジー)」を本気で国家の公式戦略として採用してしまったのです。
1.2 1992年ペンタゴン極秘戦略「ディフェンス・プランニング・ガイダンス(DPG)」
仮想敵国としてのロシア・中国・日本・ドイツ
より具体的に 1992年2月、アメリカ国防総省(ペンタゴン)は「ディフェンス・プランニング・ガイダンス(DPG:国防計画指針)」という公式の戦略文書をまとめました。これは、アメリカの潜在的な競争相手になり得る国家は、同盟国・敵対国を問わず、すべてあらかじめ叩き潰すという極めて傲慢な戦略案でした。
この秘密裏に作成された戦略文書は、翌月である1992年3月8日の『ニューヨーク・タイムズ』にリークされ、全米および世界中で大問題となりました。この文書は現在でもGoogleで検索すれば、ニューヨーク・タイムズのアーカイブから誰でも全文を読むことができます。興味のある方はぜひご自身で検証していただきたいと思います。
この極秘プランの中で、アメリカは冷戦終結後の世界において以下のような驚くべき方針を定めていました。
かつての超大国であるロシアを徹底的に抑え込み、再起不能にする。
中国が東アジアにおいていかなる形でも覇権を握ることを断じて許さない。
当時、アメリカの緊密な同盟国であったはずの「日本」と「ドイツ」に対して、決して自主防衛能力を持たせない。日本とドイツが真の独立国(主権国家)として再び台頭することを阻止し、永久にアメリカの従属下に置き続ける。
つまりアメリカは、自国だけが世界で唯一の覇権国であり続けるために、ロシア、中国、日本、ドイツの4カ国を実質的な仮想敵国(または永遠の抑圧対象)として位置づけ、世界制覇を永続化しようとする計画を立てたのです。
日本とドイツに対しても、将来的に国力が復興して独立的な立場をとることを、永久に上から抑えつけるという思想ですね。
この戦略プラン自体が、そもそも最初から実行不可能な(インポッシブルな)狂気の沙汰だったのです。アメリカ一国だけで全世界、そしてこれらの大国すべてを永久に支配・統制するなど、物理的にも財政的にも不可能です。
私が今でも鮮明に覚えているのは、ペンタゴンがこの無謀なプランを作り、国務省や民主党・共和党の主流派がそれに賛成して一極覇権路線に突っ走ろうとした当時、アメリカの学界で最も優秀であった超一流の国際政治学者たちが、こぞってこの方針に真っ向から反対したという事実です。
1.3 超一流の政治学者たちによる警告とその黙殺
ケナン、キシンジャー、ウォルツ、ハンティントン、ミアシャイマーの予言
アメリカが誇る、真に知的な国際政治学者や外交の重鎮たち、すなわち、冷戦期の対ソ抑制政策を提唱した ジョージ・ケナン元国務長官で現実主義外交の巨頭 ヘンリー・キシンジャー、ネオリアリズム(構造的現実主義)の開祖である ケネス・ウォルツ『文明の衝突』で有名なハーバード大学の サミュエル・ハンティントン シカゴ大学の最高峰のリアリストである ジョン・ミアシャイマー これらの知性ある人々は、一様に「アメリカ単独で世界の覇権を握り続けることは不可能であり、そんな思い上がった戦略は必ず破綻する」と厳しく警告しました。
彼らは歴史の教訓を知っていたため、「国際政治のノーマルな姿(正常な状態)とは、過去500年間がそうであったように、常に4つか5つの大国が並び立つマルチポーラー(多局状態)であり、それらの大国がバランス・オブ・パワー(勢力均衡外交)によって調和を図ることである」と主張したのです。
アメリカがまるでかつてのナポレオン、ヒトラー、あるいはルイ14世のように思い上がり、世界中のすべての大国を屈服させ、自国に従属させようとすることは、アメリカ自身の国力を枯渇させ、国際秩序を崩壊させる自殺行為であると、ケナンもキシンジャーもハンティントンも明確に説いたのです。
冷戦後の軍事介入の急増と、成功率の劇的な低下
しかし、アメリカの外交政策エスタブリッシュメント(指導層)や、軍事政策エスタブリッシュメント(ペンタゴンや軍産複合体)は、これらの賢者たちの警告に耳を傾けるどころか、彼らを完全に無視し、一極覇権の獲得という不可能な目標に向かって暴走を始めました。
皮肉なことに、冷戦期という「東西の対立」があった時代よりも、冷戦が平和裏に終わった後のほうが、アメリカによる他国への軍事介入の頻度が劇的に高まったわけですね。
統計的にも明らかですが、アメリカが冷戦後(1991年以降)に他国へ軍事介入した頻度は、冷戦期(1947年〜1990年)の2倍以上に跳ね上がりました。
普通の人々は、冷戦が終わり、ソ連という脅威が消え去ったことで「ようやく世界に平和が訪れた」と考えました。しかし、アメリカの支配層は逆に「今こそ敵がいなくなったチャンスだ。この機会を逃さず、世界中の潜在的な競争相手をすべて先制的に叩きのめし、従属させてしまおう」と判断したのです。世界中で「カラー革命」を煽り、政権転換(レジーマ・チェンジ)を目的とした直接的な軍事介入を頻発させました。
ここに決定的な失敗のデータがあります。 軍事介入の頻度が2倍に増えた一方で、その軍事介入の「成功率」は、冷戦期に比べてどんどんどんどん低下していったのです。 介入すればするほど、アメリカは泥沼にはまり込み、ことごとく失敗を重ねるという悲惨な状態に陥りました。
第2章:米国の軍事介入を歪める国内政治と「アニムス・ドミナンディ」
2.1 軍事介入の原動力:軍産複合体の利権と「デモクラティック・ピース・セオリー」
覇権主義の失敗がもたらした世界各地の不安定化
アメリカが世界中へ過剰な軍事介入を繰り返し、そのすべてで失敗を重ねた結果、聞き手が冒頭でおっしゃったように、世界情勢はどんどんどんどん流動化し、極めて不安定な状態に陥ってしまいました。
シリア、リビア、バルト三国、そしてウクライナ。世界中のありとあらゆる地域が混沌としていますが、そのすべての根底にあるのは「アメリカが世界中に手を広げすぎて介入しすぎ、結果としてすべての地域で泥沼を作り出している」という冷徹な事実です。
そして、世界中に軍事力を分散して浪費しすぎたため、アメリカは現在、最重要地域であるはずの東アジアに十分な戦力と注意力を集中させることができなくなっています。
アメリカがそこまで世界中で無謀な軍事介入を増やし続けたのは、国務省や国防総省の単なる戦略的判断ミスだけではないはずですね。背景には強大な経済的・政治的利権が絡んでいる。アメリカには、言うまでもなく強大な「軍産複合体(Military-Industrial Complex)」が存在します。軍産複合体にとっては、アメリカが世界中で軍事的な関与(コミットメント)を広げ、緊張状態が継続すればするほど、自分たちの製造する武器や弾薬が大量に消費され、巨万の富となって彼らの懐に転がり込んできます。戦争や軍事緊張は、彼らにとって最も効率の良い「ビジネス」なのです。
そして、この軍産複合体と表裏一体となって動いているのが、過激な介入主義を唱える「ネオコン(新保守主義)グループ」です。
「民主的平和論(デモクラティック・ピース・セオリー)」という欺瞞
先ほど名前を挙げましたフランシス・福山は、1980年代の初頭から2003年頃まで、まさにこのネオコン・グループのど真ん中に所属する手先として活動していました。
彼らがでっち上げたのが、「民主的平和論(デモクラティック・ピース・セオリー:Democratic Peace Theory)」という極めて欺瞞に満ちたイカサマな学説です。 これは、「世界中の国々をアメリカのような『自由民主主義国家』に改造すれば、世界から戦争はなくなる」という、一見すると非常に聞こえの良い、道徳的なスローガンです。
ネオコンの連中はこのスローガンを免罪符のように振りかざし、「我々は世界に民主主義と平和をもたらす(デモクラティック・ピースの)ために、他国に対して戦争を吹っかけ、軍事介入しているのだ」と言い張りました。しかしその真の目的は、軍事用品を売りさばいて暴利を貪ること、そして何よりも、他国を自分たちの支配下に置きたいという剥き出しの「覇権欲」と「支配欲」に他なりません。
ハンス・モーゲンソーが説いた「アニムス・ドミナンディ(支配への欲望)」
1940年代から1950年代にかけて、アメリカで最も高名であった国際政治学の巨頭に、ハンス・モーゲンソー(Hans Morgenthau)という高名な学者がいます。彼の著書『国際政治(Politics Among Nations)』は、全米の大学で数十年にわたり国際政治学の標準的な教科書として使用されていました。
このモーゲンソーがその著書で喝破したのが、国際政治を動かしている真の根源的な動力は、ラテン語でいう「アニムス・ドミナンディ(Animus Dominandi)」、英語で言えば「アニマル・スピリッツ・オブ・ドミネーション(支配への野獣的衝動)」であるという事実です。
これは、「他者を圧倒的な力でねじ伏せ、自分たちの支配下に置いてコントロールしたい」という強烈な支配欲求を指します。 かつてのアーリア人やゲルマン人の基本思想、あるいはバイキングの略奪衝動にも共通する、冷酷な本能です。彼らはこの「アニムス・ドミナンディ」に突き動かされ、世界中を叩き潰し、抑えつけようと暴走するのです。だからこそ、モーゲンソーは「国際政治は本質的に安定的になり得ないものであり、だからこそ我々は常に用心して、世界構造を多局化(マルチポーラー)に保ち、バランス・オブ・パワー(勢力均衡)を機能させなければならない」と警告したのです。
しかし、現代のアメリカを支配する軍産複合体、ネオコン、そしてこれからお話しする「イスラエルロビー」は、この歴史の知恵を完全に無視し、支配への欲望のままに中東などの地政学的泥沼へアメリカを叩き込んでいきました。
2.2 イスラエルロビーと中東介入の真実
1996年「クリーン・ブレイク・レポート」の衝撃
アメリカの外交を大きく歪めているもう一つの決定的な要因が、強力な「イスラエルロビー(Israel Lobby)」の存在です。彼らの目的は、イスラエルの国益と生存のために、アメリカの国力と軍事力を徹底的に利用し、中東政策に介入させ続けることにあります。
その決定的な証拠が、1996年に作成された「クリーン・ブレイク・レポート(A Clean Break: A New Strategy for Securing the Realm)」という文書です。 これもGoogleで検索すれば、今でも誰でも原文を読むことができる公開された動かぬ証拠です。
このレポートは、アメリカの極めて影響力のあるユダヤ系政治学者や軍事学者など6〜7人がテルアビブに渡り、現地のシンクタンクで共同作成したものです。 その内容は極めて冷酷なもので、「いかにしてアメリカ軍を代理人として利用し、アメリカの力によって、イスラエルの潜在的脅威であるイラク、シリア、イランの3カ国を叩き潰し、政権を転換させるか」という緻密なプランでした。
当時の、そして現在のイスラエル首相でもあるベンジャミン・ネタニヤフは、このレポートを受け取って大喜びし、「これで行こう」と合意しました。イスラエルという国家は小さいため、自力でイラク、シリア、イランのすべてを壊滅させる実力はありません。しかし、世界最強のアメリカ軍を「お財布」かつ「暴力装置」として利用すれば、それが可能になるからです。
9.11テロ以前に決定されていた「イラク戦争」
驚くべきことに、このイスラエルロビーとネオコンが描いた「アメリカ軍を使ってイラク、シリア、イランを潰す」という極めて利己的なプランを、当時のビル・クリントン大統領と妻のヒラリー・クリントンがそのまま受け入れてしまったのです。
その結果、アメリカ連邦議会は1998年の時点で早くも「イラク体制転換法(Iraq Liberation Act of 1998)」を決議しました。
一般的には、2003年に始まった「イラク戦争」は、2001年9月11日の同時多発テロ(9.11)を受けて突発的に発生したものであると信じられています。しかし現実は全く異なります。 同時多発テロが起きる5年も前の1996年には、すでにイラク、シリア、イランをアメリカ軍によって壊滅させるプランがイスラエルロビーの手で完成しており、1998年にはアメリカ連邦議会が公式にそれを承認していたのです。9.11テロは、彼らにとって、かねてからの計画を実行に移すための「絶好の口実」に過ぎませんでした。
2.3 歪んだ政治資金制度と「超富裕層・ユダヤ人ロビー」の影響
課税逃れシステムが支える巨額の「政治献金」
なぜ、世界一の超大国であるはずのアメリカの連邦議会や大統領が、それほどまでに特定のロビー団体の言いなりになって、自国の国益を損なうような無謀な戦争に突き進んでしまうのか。
その謎を解く鍵は、アメリカの極めて歪んだ「政治資金制度」と「税金システム」のトリックにあります。
アメリカには、信じられないような富裕層向けの優遇トリックが存在します。収入を現金(給与)で受け取るのではなく、自社の「株式」や「ストックオプション」で受け取るシステムです。 現金で数億ドル、数十億ドルの収入を得れば、当然20%から35%以上の高い所得税を課されます。しかし、株式として受け取っている限り、その株を市場で実際に売却して利益(キャピタルゲイン)を確定させない限り、税金は基本的に「0円」のままです。
例えば、イーロン・マスクは莫大な資産を築き、個人資産が4000億ドル(約60兆円)に達する勢いですが、彼がこれほど莫大な富を増やす過程で実際に国に支払った実効税率は、わずか「1%程度」に過ぎません。 Amazonの創業者であるジェフ・ベゾスの実効税率も、わずか「1.1%」です。
このように、アメリカの超富裕層や大富豪たちは、ほとんど税金を払う必要がないため、手元に天文学的な余剰資金をプールしています。そしてその資金を、自分たちの影響力を永続化させるための「政治献金」として、湯水のように政治家たちに供給できる仕組みになっているのです。
例えば、Facebook(Meta)のマーク・ザッカーバーグは、2020年の大統領選挙において、個人でなんと4億5000万ドル(日本円で約600億〜650億円)もの巨額資金を、特定の選挙対策資金として投入しました。1人の個人が何百億円もの金を動かして大統領選挙を左右する、そのような異常なことが公然と行われているのが、アメリカの民主主義の正体です。
両党の首根っこを掴む「ユダヤ人ロビー」の資金力
さらに深刻な問題は、こうしたアメリカの巨額政治献金者のうち、少なくとも「4割以上」がユダヤ系の大富豪であるという事実です。
ジミー・カーター大統領の主席補佐官を務めたハミルトン・ジョーダン(Hamilton Jordan)の回顧録や証言によれば、「民主党が大統領選挙や主要選挙の際に使用するすべての政治資金の、なんと『6割』がユダヤ系の政治献金者から来ている」とされています。 そして、対立する共和党の場合でも、その「3割」がユダヤ系の資金提供者から来ているのです。
民主党の資金の6割、共和党の資金の3割という、政党の生命線とも言える巨額資金を特定のロビー団体に依存しているのですから、大統領も、上院議員も、下院議員も、彼らの要求に対して完全に「イエスマン」にならざるを得ません。首根っこを完全に掴まれているのです。
最近の具体的な例を挙げましょう。ドナルド・トランプがイスラエルを訪問した際、イスラエル国会(クネセト)の演説で、ベンジャミン・ネタニヤフ首相の隣に座っていたミリアム・アデルソン(Miriam Adelson)という大富豪のおばあさんがいました。彼女はイスラエルとアメリカの二重国籍者です。 彼女はトランプが大統領選挙に出馬するたびに、1億ドル(約150億円)、1億5000万ドル、あるいは2億ドルといった天文学的な金額を献金しています。
実際、トランプは支援者の前でミリアムに向かって、「ミリアム、君の財産は60億ドル(約9000億円)もあるんだってね。君がそれほどの大金持ちだからこそ、私はこうして選挙を戦い、大統領になることができるんだ。本当にありがとう、ありがとう」と大声で感謝を述べていました。
アメリカの政治の現場を近くで見ていると、これほどまでに金で政策と主権が買い叩かれている、極めてグロテスク(醜悪)な現実を突きつけられます。
実にグロテスクですね。しかし、それこそが現代アメリカを動かしている剥き出しの「真実」そのものですね。 日本の大手のマスコミは、こうしたアメリカの歪んだ政治構造や資金の裏付け、イスラエルのロビー活動の実態を完全に無視し、あるいは覆い隠した上で報道をしています。だから、お金の力によって圧倒的な発言力と武力を持つイスラエル側を常に「正義」とし、土地を奪われ、虐げられて抵抗せざるを得ない中東のパレスチナの人々を一方的に「テロリスト」や「悪」として描き出す。極めて偏向した、事実に基づかない報道姿勢を日本中が統一して取っているように見えます。
私が「左翼」を擁護しているように感じて怒られる方もいるかもしれませんが、少なくとも中東パレスチナ問題の報道に関する限り、日本の新聞で言えば、まだ左翼的とされる朝日新聞や毎日新聞のほうが、客観的な事実を報じているだけ「マシ」な部類に入ります。
最も偏向していて目も当てられないのが、いわゆる「日本会議」系の保守派や、櫻井よしこ氏が率いる「国家基本問題研究所」、そして産経新聞や読売新聞です。 彼らは、イスラエル軍がガザ地区などで国際法に完全に違反した組織的虐殺(ジェノサイド)を公然と実行していても、それを「イスラエルの自衛権の行使である」などと平然と擁護し続けています。 私はこれを見ていて、日本のいわゆる「自称・保守派」「右翼」と呼ばれる知識人たちは、客観的なバランス感覚を完全に失っており、知的にも倫理的にも完全にどうかしてしまっているのではないかと、強い危機感を抱いています。
第3章:東アジアにおける軍事バランスの劇的変化:ミサイル・ドローン戦力と迎撃の非対称性
3.1 ウクライナ戦争で証明された「ミサイルとドローン」の主役化
東アジアにおける通常戦力の非対称性:中国の圧倒的優位
東アジア、そして日本をめぐる極めて冷酷な「軍事バランスの現実」に戻しましょう。
ウクライナ戦争の戦闘様相を冷静に分析すれば、専門家の間ではもはや常識となっていますが、現代の通常戦争における主役は、高価な戦闘機や戦車ではなく、「ミサイル」と「ドローン(無人機)」です。
この「ミサイル」と「ドローン」という現代戦の二大主役に焦点を当てて、現在の東アジアにおける「中国軍」と「アメリカ軍」の戦力を比較した場合、極めて衝撃的な事実が浮かび上がります。 実は、中国側の保有するミサイル・ドローン戦力は、東アジアに展開するアメリカ軍を質量ともに圧倒しており、中国側が「圧倒的有利」な状況にあるのです。
それは具体的にはどのような数値、あるいは戦力バランスになっているのか。
例えば、敵の主要な水上戦闘艦を標的として一撃で破壊する「対艦弾道ミサイル(ASBM:Anti-Ship Ballistic Missile)」の保有数を比較してみましょう。 東アジア地域において、中国軍が配備している対艦弾道ミサイルの数は、アメリカ軍がこの地域に展開している数に対して、なんと「7倍以上」に達しています。
もし、アメリカの空母打撃群(海軍)が中国海軍と直接衝突した場合、中国側はアメリカ海軍に対して、アメリカ側の7倍以上の弾数で超音速ミサイルを絶え間なく波状攻撃として打ち込める能力を持っています。アメリカの海軍将官たちやペンタゴンは、この圧倒的な数の暴力を前にして、「怖くて中国の近海(第一列島線内)には近づくこともできない」というのが本音なのです。
中距離弾道ミサイル(IRBM)における中国の「数十倍」の物量
さらに深刻なのが、日本本土やグアム島のアメリカ軍基地を直接射程に収める「中距離弾道ミサイル(IRBM:Intermediate-Range Ballistic Missile)」のバランスです。射程1000キロメートルから1500キロメートル、あるいはそれ以上の領域をカバーする中距離ミサイルは、東アジアの戦域において最も死活的に重要な兵器です。
この中距離弾道ミサイルに限って言えば、東アジアに配備されている中国軍のミサイル数は、アメリカ軍が同地域に保有している数の、なんと「数十倍」に達しています。
中国は長年にわたり、アメリカと結んでいた「中距離核戦力(INF)全廃条約」の枠外で、地上発射型の中距離ミサイルを大量に製造・配備し続けてきました(アメリカは同条約に縛られていたため、地上発射型中距離ミサイルを全く保有していませんでした)。この数十倍という物量の差は、通常兵器による戦闘において、アメリカが中国に対して戦術的・戦略的に全く太刀打ちできないことを意味しています。
アメリカがいくら「同盟国である日本を強力に守る」という外交姿勢を示していても、実際の軍事力の配備数を見れば、アメリカ軍が前線に出て中国と真っ向から通常戦で戦うことは不可能なのです。
3.2 「攻撃側圧倒的有利」をもたらすコストの非対称性
迎撃コストは攻撃コストの「20倍から30倍」
日本国内では、高市早苗氏をはじめとする一部の政治家が、「もし台湾有事が発生した場合には、日本の自衛隊の護衛艦(軍艦)を速やかに現地に派遣し、日米共同で対処すべきだ」と威勢のいい主張を展開しています。しかし、今のご指摘を踏まえると、これは軍事技術的に極めて無謀な主張に見えます、極めて無謀であり、恐ろしいほど軍事現実を無視した暴論です。 中国の近海は中国軍の圧倒的なミサイルとドローンの投射能力に支配されています。そのような海域に、日本の自衛隊の護衛艦やアメリカのイージス艦が不用意に進入していけば、まるで「蜂の大群」が襲いかかってくるかのように、数千発規模の安価なドローンと超音速ミサイルが同時に襲いかかってきます。一瞬で飽和攻撃を受け、全滅させられるのは火を見るより明らかです。
ここで、一般の方々が誤解している「ミサイル防衛(イージス・アショアやPAC-3など)の限界」について説明しなければなりません。 敵から飛んできたミサイルやドローンを、空中で迎撃ミサイルによって撃ち落とす防衛技術は存在します。しかし、「攻撃側がミサイルやドローンを製造して打ち込むコスト」と、「防御側がそれを迎撃ミサイルで撃ち落とすコスト」の間には、埋めようのない壊滅的な非対称性(非対称コスト)が存在するのです。
この前までアメリカ軍の制服組トップ(統合参謀本部議長)を務めていたマーク・ミリー陸軍大将(General Mark Milley)は、公式にこう指摘しています。 「ミサイル防衛システムで敵の攻撃を完全に撃ち落として防御するためには、相手が攻撃にかける費用の『少なくとも20倍以上』のコスト負担を強いられる」
イランによるイスラエル攻撃が証明した冷酷な実例
実は私も、先般の中東での戦闘、すなわちイランがイスラエルの首都テルアビブなどに向けてドローンと弾道ミサイルを大規模に撃ち込んだ際の実際の推移を、技術者としての興味から詳細に観察していました。 確かに、イスラエルの上空で迎撃システムが機能して大部分を打ち落としたと報道されていましたが、それでも何発かは防衛網をすり抜けて着弾し、相応の被害を与えていました。何よりも、攻撃側の圧倒的な自由度に対して、防御側は極めて厳しい立場に追い詰められているように見えましたが。
そのイランによるイスラエル攻撃のエピソードこそが、ミリー大将の言う「20倍以上の非対称コスト」を完璧に証明する、生々しい最新の実例なのです。
イランがイスラエルに対して弾道ミサイルや自爆ドローンを大量に打ち込んだ際、イラン側がその攻撃に費やした兵器の総製造・発射コストは、1億ドル(日本円で約150億円)以下であったと分析されています。
これに対し、アメリカ軍とイスラエル軍が、それらの安価なイラン製ミサイルやドローンを撃ち落としてイスラエルを防衛するために、その一晩だけで放ったイージス艦搭載の迎撃ミサイル「SM-3」やパトリオットミサイルなどの総費用は、なんと「20億ドル(日本円で約3000億円)以上」に達したのです。
150億円の攻撃を防ぐために、一晩で3000億円もの国力を消費したわけですか。実に「20倍から30倍」のコスト差ですね。
攻撃側は150億円という、国家予算から見れば微々たるコストで攻撃できるのに対し、防御側は一晩で3000億円という巨額の軍事予算を浪費させられるのです。これを何週間、何ヶ月と続けられたら、防御側のアメリカやイスラエルの国家財政と迎撃ミサイルの在庫は瞬時に完全に破綻します。
中国のミサイル・ドローンの生産能力は、現在、文句なしに「世界第一位」です。 中国がその圧倒的な世界最大の製造工業力を背景に、極めて低コストで万単位のミサイルとドローンを量産し、日本やアメリカ軍基地に向けて雨あられと撃ち込んできた場合、その製造コストの20倍、30倍もの費用を払いながら、一発数億円から数十億円もする迎撃ミサイルで撃ち落とし続けることなど、物理的に絶対に不可能です。軍事ロジスティクスの観点から言えば、この時点で「通常戦争は継続不可能」なのです。
3.3 米国の武器・弾薬の枯渇とトランプの真意
ウクライナ支援で空っぽになった米国の「武器庫」
さらに危機的な現実は、アメリカにはもはや、こうした消耗戦に耐えうるだけの「武器・弾薬の備蓄」そのものが残っていないという点です。
アメリカは過去30年間にわたり、毎年、世界のどこかしらで不必要な軍事介入や戦争を継続してきました。そのため、平時から武器弾薬をどんどんどんどん消耗し続けていたのです。 そこへ追い打ちをかけたのが、ウクライナ戦争です。バイデン政権は、ウクライナを支援するために、アメリカ軍が自国の防衛用に備蓄していた対空ミサイル、対戦車ミサイル、155ミリ榴弾砲などの弾薬を、倉庫が空っぽになるほど大量に送ってしまいました。
その結果、現在のアメリカ軍の武器・弾薬の備蓄は、世界規模の対中国・対ロシア通常戦争を戦うには全く足りない、枯渇状態に陥っているのです。
ドナルド・トランプ氏が「大統領に就任したら、ウクライナへの軍事支援を即座に停止して戦争を終わらせる」と公言しているのは、単に彼がロシアに同情的だからではなく、こうしたアメリカ軍の極めて厳しい弾薬・兵器の物理的な限界を知っているからなのですね。
極めて冷徹な現実主義的(リアリズム)な判断です。 トランプや彼の軍事顧問たちは、「これ以上、勝てないウクライナ戦争にアメリカの貴重な武器・弾薬を浪費し続けたら、いざ東アジアで中国との有事が発生したときに、中国軍の圧倒的なミサイル物量を前にして、戦うための弾薬が一発も残っていないという、最悪の軍事破綻を迎える」という危機感を持っているのです。だからこそ、トランプは「ウクライナ支援など今すぐ止めろ」と言っているのです。
3.4 急速に拡張される中国の「核戦力」
2030年代には核弾頭1500発体制へ
通常戦力(ミサイル・ドローン)における中国の圧倒的優位に加え、彼らは今、「核戦力」をも爆発的なスピードで増強しています。
現在、中国軍が保有している核弾頭の数は、すでに約700発に達していると分析されています。しかし、彼らの核増強のペースは毎年毎年、恐ろしいほどのスピードで加速しており、2030年代の初頭には、少なくとも「1500発以上」の核弾頭を実戦配備することになると予測されています。
日本国内のいわゆる「威勢のいい保守派」の政治家や産経新聞、読売新聞などは、こうした中国の核戦力・通常戦力の圧倒的な拡張の現実を直視せず、ただ感情的に「アメリカと同盟を結んで、一歩も引かずに台湾を、尖閣を守るために立ち上がれ」と叫んでいます。
しかし私は彼らに冷徹に問いかけたい。 「ミサイルとドローンの生産能力がすでに世界第一位であり、迎撃コストの20〜30倍の不条理を突きつけてくる国、そして近いうちに1500発もの核弾頭を保有する核超大国に対して、あなた方は真の自主防衛能力も持たないまま、一体どのようにして本気で戦争を戦うつもりなのですか?」と。今の自衛隊には、そのような大国と単独で、あるいは米国の支援なしで通常戦争を戦い抜く能力は、残念ながら全く存在しないのです。
第4章:崩壊している「米国の核の傘」と日本の不正直な安全保障論
4.1 「核の傘」という虚構
自衛隊OB(矢野陸将・田陸将)が喝破する「核の傘の不在」
テレビや大手のニュース番組を見ていると、自衛隊OBなどの「軍事専門家」とされる人物が登場し、一様に「日本の防衛は万全である。日米同盟があり、アメリカの『核の傘(拡張抑止)』がしっかりと機能しているから、中国や北朝鮮が日本を攻撃してくることはない」と語っています。 しかし、師匠、今の東アジアの戦力バランスや、アメリカ軍の物理的な武器枯渇を見れば、「アメリカの核の傘」が本当に日本を守るために機能するのか、極めて疑問だと言わざるを得ませんが、実態はどうなのでしょうか。
「アメリカの核の傘」などというものは、最初から存在しません。それは日本国民を安心させ、思考停止させて従属下に置き続けるための、ただの「外交的な虚構(ファンタジー)」に過ぎません。
日本国内で本当のことを言う人物は、マスコミから徹底的に排除されますが、実は陸上自衛隊の最高幹部を務められた田陸将、そして矢野陸将のお二人は、明確に「アメリカの核の傘などは存在しない。日本は直ちに真の自主防衛能力、すなわち自主的核抑止力を持たなければならない」と、自著や一部の専門誌ではっきりと主張されています。
米国の本音:「日本を守るために自国の破滅(核ミサイル撃ち合い)を辞さないわけがない」
なぜ彼らがそう断言するのか、そしてなぜ私がそう確信しているのか。 それは、私自身が過去数十年にわたり、アメリカの国家意思を決定する中枢にいる国防総省(ペンタゴン)、国務省、CIA(中央情報局)の局長・部長クラス、あるいは海軍兵学校(アナポリス)の国際政治学・軍事学の教授など、合計11〜12人のトップクラスの米軍・外交専門家たちと、「一対一」で徹底的に核抑止の機能について議論を重ねてきたからです。
彼らはプライベートな議論の中で、極めて冷酷に、そして明確にこう語りました。 「いざという事態(台湾有事や尖閣有事など)が発生したとしても、アメリカ軍が日本のために、ロシアや中国と本気で核ミサイルの撃ち合いをする(自国に核が撃ち込まれるリスクを冒す)ようなことは絶対にやらない」
それはアメリカの国益から見れば、当然の判断ですね。日本が攻撃されたからといって、アメリカのニューヨークやロサンゼルスに中国やロシアの核ミサイルが撃ち込まれて何千万人ものアメリカ国民が死ぬリスクを冒してまで、核報復のスイッチを押すアメリカ大統領など、存在するはずがありません。
日本のために自国の破滅(数十百万人の市民の死)を差し出すような大統領など、世界のどこを探しても存在しません。これが国際政治の「冷徹な現実」です。 つまり、アメリカが自国の破滅を冒してまで同盟国に核報復の保証を提供するという「拡張抑止(核の傘)」は、軍事ロジック上、完全に崩壊しているのです。自衛隊の良識ある最高幹部であった田氏や矢野氏が「核の傘なんかないんだから、自力で核抑止力を持たなければ国を守れない」とはっきりおっしゃるのは、軍事的に100%正しい結論なのです。
4.2 日本の安全保障エスタブリッシュメントの臆病と不正直
「本当のことを言うと干される」防衛省・大学の現実
それほどまでに軍事の現場や最高幹部の間では常識となっている「核の傘の不在」という事実が、なぜ日本の防衛省や外務省、あるいは大学の国際政治学の教授たちから、公式に語られることがないのでしょうか。
それは、彼らが極めて臆病であり、かつ「不正直(ディスオネスト)」だからです。
外務省や防衛省の高級官僚、防衛大学校の教授、防衛研究所の政府系研究員たち。彼らは全員、常に「アメリカの顔色」だけを伺って、アメリカが気に入るような、アメリカの都合の良い発言だけをするように徹底的に骨抜きにされています。
彼らの本音は極めて浅ましいものです。 「アメリカにとって不都合な真実、すなわち『核の傘は存在しない、日本は自主核武装が必要だ』などという本当のことを言えば、即座に役所や学界でアメリカ(および親米エリート層)から睨まれ、出世コースから外されて干されてしまう。日本国民の命がどうなろうと、自分の身分と子供の養育費、ポストだけは死守したい」 こうした徹底的な事なかれ主義と保身によって、日本の安全保障エスタブリッシュメントは、意図的に国民に対して嘘を吐き続けているのです。
その中で唯一の例外だったのが、防衛研究所の職員(主任研究官)を務められた平松茂さんでした。 平松さんただ一人が、防衛研究所という政府機関の中にいながら、「アメリカの核の傘は実質的に存在しない。日本は一刻も早く自主防衛と自主核武装に踏み切るべきだ」と、孤立無援の立場で本当のことを主張し続けました。しかし彼の後に続く者は誰もいませんでした。防衛大や防衛研究所の現在の教授や研究員たちは、驚くほど臆病で、アメリカに干されることを極度に恐れるヒラメ官僚ばかりなのです。
4.3 米国知識人層が議論し始めた「同盟国の核保有論(Go Nuclear)」
フォーリン・アフェアズ誌等に掲載された「Go Nuclear」論文
しかし面白いことに、当のアメリカの知識人層の間では、最近になって「日本は核武装すべきである」という現実主義的な議論が公然と行われるようになっています。
例えば、著名な外交専門誌である『フォーリン・アフェアズ(Foreign Affairs)』を創刊しているアメリカで最も影響力のある超一流シンクタンク、国際問題評議会(CFR:Council on Foreign Relations)の公式ウェブサイトなどに、2人のアメリカ人軍事学者が極めて注目すべき共同論文を発表しました。 執筆者は、オクラホマ大学の軍事学者であるモリッツ・グラフルス(Moritz Grafrath)とマーク・レイモンド(Mark Raymond)です。
この論文のタイトルは、「ニュークリア・プロリフェレーション・イン・ザ・グローバル・オーダー:同盟国は核を持つべきである(Go Nuclear)」という、極めてストレートなものでした。
彼らの主張はこうです。 「アメリカの同盟国に核兵器を持たせる(選択的な核拡散を認める)ことは、世界の秩序と地域バランスを維持する上で極めて有効である。特に現在の東アジアを安定させるためには、アメリカは日本に自主的な核保有を認めるべきである。」
日本が自主的核抑止力を持つことで達成される地政学的安定
彼らの理論は、現実主義の軍事ロジックに基づいています。 日本が自主的な核抑止力を持てば、中国や北朝鮮は日本を「核ミサイルを撃ち込むぞ」と同括(脅迫)することができなくなります。 日本が核を保有したからといって、その核で本当に北朝鮮や中国と核戦争をやるわけがありません。核戦争をやれば日本も壊滅的な被害を受けるからです。しかし、日本が「保有している」という、ただその事実だけで、中国も北朝鮮も日本に対して致命的な手出しをすることが完全に不可能になります。なぜなら、中国や北朝鮮もまた、日本からの核報復によって自国が破壊されることを極度に恐れている(相互確証破壊の論理)からです。
つまり、日本が核を持つことで、東アジアの地政学的バランスは奇跡的に安定し、中国の暴走を完全に抑止できる。だからこそ、この2人のアメリカ人学者は「日本に核を持たせたほうが、アメリカにとっても負担が減り、東アジアも安定する」と主張しているのです。
この意見は彼らだけのものではありません。 先ほど名前を挙げましたシカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授も、「日本には今や自主的な核抑止力が必要不可欠である。もし日本人が真剣に『我々には自主防衛のために核が必要だ』と言い出し、国際社会に訴えれば、アメリカ政府も最終的にはそれを認めざるを得なくなるだろう」と明確に述べています。
さらに、ネオリアリズムの巨頭ケネス・ウォルツ教授も、1993年の時点で早くも「地政学的な位置づけから見て、日本は将来的に核を持たざるを得ない立場に追い詰められるだろう」と論文で予言していました。テキサスA&M大学のクリストファー・レイン教授や、マサチューセッツ工科大学(MIT)のBarry Posen(バリー・ポーゼン)教授といった最高峰の軍事学者たちも、一様に「現在の日本は、核を持たざるを得ない立場に追い詰められている」と論じているのです。
4.4 日独の核保有を米国政府が拒む「真の理由」
自主防衛による日独の対米自立(米軍へのさよなら)への恐怖
アメリカの優秀な軍事学者や現実主義者たちがそれほど論理的に「日本に核を持たせるべきだ」と提言しているにもかかわらず、現在のアメリカ政府(国務省やペンタゴン、ホワイトハウス)が公式には「日本の核保有には絶対反対である」という立場を崩さないのは、一体なぜなのでしょうか。
そこには、アメリカの国家戦略、いわゆる「グランド・ストラテジー」の最深部にある、極めて身勝手な動機が存在します。
1992年のディフェンス・プランニング・ガイダンス(DPG)の箇所でも申し上げましたが、アメリカのグランド・ストラテジーの基本原則は「アメリカの覇権を脅かすライバル候補を絶対に作らないこと」です。
もし、日本とドイツが自主的な核保有を認められ、自前の核抑止力によって「真の自主防衛」を確立したとしましょう。そうなった瞬間、日本国民やドイツ国民は、地政学的・精神的にどのように感じるでしょうか。 当然、「自前で国を守れるのだから、もうアメリカ軍に高い思いやり予算を払って駐留してもらう必要はない。米軍の皆さん、バイバイ、さよなら」となります。
日本とドイツからアメリカ軍の基地が撤去され、日独が真の独立主権国家として立ち上がれば、日本政府もドイツ政府も、もはやアメリカ政府の無理難題や一方的な経済的・外交的要求に対して、従順に従う必要が完全になくなります。
核の恐怖(脅し)による一方的支配の永続化
現在のアメリカは、日本とドイツに対していつでも以下のような「脅し」を突きつけることができます。 「お前たち、周辺国(中国、ロシア、北朝鮮)の核兵器が怖くないのか。彼らの核から守ってほしければ、アメリカの言うことを聞け。言うことを聞かないなら、いつでも米軍を引き上げ、核の傘を取り上げてやるぞ」
この「核の恐怖」を人質に取ることで、アメリカは日本とドイツを屈服させ、自国に有利な一方的な条約や要求を押し付けてコントロールし続けることができるのです。 日独が核を持って真に自立してしまうと、この便利な支配ツールを永久に失うことになります。これこそが、アメリカの外交・防衛エスタブリッシュメントが、何としても日本とドイツに核を持たせたくない、自主独立を阻止したいと考えている「真の醜い理由」なのです。
4.5 コルビーの「現実的なアプローチ」と両党の日本観
親日を装って従属を強いる「ジャパン・ハンド」の欺瞞
ここで、アメリカの防衛・安全保障政策の中心人物であるエルブリッジ・コルビー(Elbridge Colby)についてお話ししなければなりません。 コルビーは、トランプ政権期の国防次官補代理(戦略・兵力開発担当)を務め、実質的に現在のペンタゴンの軍事政策に最も強い影響力を持つ、若き軍事戦略家のトップです。
彼の一族はアメリカの軍事・インテリジェンスの超エリート家系です。ひおじいちゃんは有名な将軍であり、おじいちゃんはフォード政権期にCIA長官を務めたウィリアム・コルビー(William Colby)です。 さらに、エルブリッジ自身は父親の銀行勤務の関係で東京で育ち、日本の「西町インターナショナル・スクール」などに通っていたため、日本に数年間住んだ経験があります。
このコルビーが極めてユニークなのは、これまでの歴代のアメリカの「ジャパン・ハンド(知日派)」と呼ばれてきた人物たち
- リチャード・アーミテージ(元国務副長官)
- ジョセフ・ナイ(ハーバード大学教授)
- マイケル・グリーン(CSIS元アジア部長)
- リチャード・サミュエルズ(MIT教授)
といった、いかにも「知日派・新日派」のポーズを取りながら、裏では「日本を絶対に独立させるな。周囲の国が何百発、何千発の核ミサイルを持っても、日本人にだけは絶対に核を持たせるな。永久にアメリカの従属下に置き続けろ」と画策してきた偽善者たちに比べて、驚くほど「正直(オーネスト)」で現実的であるという点です。
コルビーのリアリズム:中国の通常戦力凌駕に伴う日本の自主防衛承認
コルビーは、現在の米中の通常戦力バランスを客観的に見て、中国がアメリカを凌駕しつつある現実を冷徹に直視しています。 彼はこう分析しています。 「東アジアにおける通常戦力のバランスは、すでに中国の圧倒的優位に傾いている。アメリカ軍が単独で中国軍と戦って勝てるというシナリオは、もはや説得力を持たない。このような状況下においては、アメリカはもはや日本を一方的に保護する余裕などない。したがって、日本が自前の核を保有し、100%自立した自主防衛体制を確立することを、アメリカは認めざるを得ないだろう。」
こうしたコルビーのような極めて現実的で、日本の核保有を容認するような議論は、主に「共和党側」から出てきます。
アメリカの二大政党である民主党と共和党では、日本に対する基本的な姿勢や感情にどのような違いがあるのでしょうか。
これには歴史的な深い違いがあります。 実は、アメリカの民主党は、伝統的に極めて強い「ジャパノフォービア(日本人嫌悪・反日主義)」のDNAを持っています。 100年前のウッドロウ・ウィルソン大統領の時代から一貫して、民主党の政治エリートたちは「日本人が大嫌い」なのです。彼らは常に日本を警戒し、侮蔑し、抑えつけようとしてきました。
これに対して、共和党は別に日本が好きというわけではないのですが、基本的には日本に対して「無関心(どうでもいい)」というスタンスです。 民主党が執拗に日本を嫌悪して介入を制限しようとするのに対し、共和党は「我々には関係ない、どうでもいい」というクールな態度をとります。だからこそ、共和党のリアリストたちからは、「アメリカの予算を使わずに自力で中国を食い止めてくれるなら、日本が核を持とうが自主防衛しようが、一向に構わないではないか」という現実的な容認論が、昔から(アイゼンハワーやニクソンの時代から脈々と)出てくるのです。
第5章:中国の「五段階グランドストラテジー(1969〜2017〜現在)」
5.1 中国の卓越した国家目標と長期戦略の遺伝子
2500年の大帝国建設の歴史と「中華思想」
それでは、今日の対談の極めて重要なメインテーマである、中国が日本や台湾、そして世界をどのように見ているのかという「中国の国家戦略」についてお話しします。
まず前提として、日本と中国では、国際政治に対する基本的な態度や思考様式が全く異なります。 中国という国家は、それこそ孔子の時代、あるいは春秋戦国時代の2500年前から、「グランド・ストラテジー(国家の根本的な長期戦略)」を構築し、それを実行する能力が極めて高い国です。
彼らの自尊心の根底には、自分たちは偉大な歴史の中で、
漢(かん)
唐(とう)
元(げん)
明(みん)
清(しん)
という巨大な大帝国を、歴史上5回も建設してきたという強烈な自負があります。「我々は世界で最も偉大な国民である。その我々が、もう一度世界一の帝国、世界一の覇権国家を作って何が悪いのか。そもそもアジアという地域は、中国の圧倒的な支配下(勢力圏)にあって当然の国々なのだ」という、いわゆる「中華思想」が、彼らのDNAの奥深くに脈々と流れているのです。
「変化は大きさのルート」という物理的・歴史的視座
物理の世界には「変化の時間は大きさのルート(平方根)に比例する」という法則があります。規模が大きくなればなるほど、何かが変化して形を成すまでに必要な時間も、その規模のルートに比例して長くなるのです。
例えば、日本の歴史において、徳川家康が約20年をかけて徳川幕府という強固な国家システムを完成させたとしましょう。 中国は日本に対して、地理的にも人口的にも約10倍の規模を持っています。10のルートはおよそ「3」ですから、中国が国家的な体制や長期的な戦略をしっかりと完成させるためには、日本の3倍、すなわち最低でも「60年」というスパンの長期的な戦略(グランド・ストラテジー)が必要不可欠になる、と物理的にも説明できるのです。
その物理的な「ルートの法則」は、中国の歴史的・地政学的な戦略展開のパターンと驚くほど見事に一致しています。 実際、中国のこれまでの歴史における大帝国の建設プロセスを分析すると、彼らは一度帝国を作ると、短いときで50年間、長いときには100年から150年という極めて長い時間をかけて、着実に自分たちの支配勢力圏を周囲に拡大していくという、極めて息の長い、一貫した行動パターンを繰り返してきました。
残念ながら、日本人は「魂がある」とか「誠意がある」といった道徳的な面は素晴らしいのですが、こうした50年、100年単位の長期的な「ストラテジーを立てて計画的に物事を実行する」という知的な能力においては、中国人に比べてはるかに劣っていると言わざるを得ません。
5.2 中国の5つのグランドストラテジーの変遷
中国政府の冷徹な特徴は、元国家主席の胡錦濤が公式に述べた通り、「世界のバランス・オブ・パワー(勢力均衡)の条件が変化するたびに、時を移さず自国のグランド・ストラテジーを最適に修正し、変遷させていく」という柔軟で狡猾な戦略構築力にあります。
実際、中国は最近の50数年間の間に、世界情勢の変化に合わせて、自国のグランド・ストラテジーを「5回」も明確に変遷させてきました。その歴史を追うことで、現在の彼らの行動の真意が見えてきます。
【中国の5段階グランドストラテジーの変遷】
第1段階(1969〜1972年):ソ連核脅威下の「米中接近・反ソ同盟」
↓
第2段階(1979年〜) :鄧小平の「改革開放」と西側技術・資本の吸収
↓
第3段階(1991年〜) :ソ連崩壊後の「米国仮想敵視とA2/AD(領域拒否)建設」
↓
第4段階(2008年〜) :リーマンショック後の「地域的覇権(リージョナルヘゲモニー)奪取」
↓
第5段階(2017年〜現在):習近平による「世界一の覇権(グローバルヘゲモニー)の確立」
第1段階(1969〜1972年):ソ連核脅威下の「米中接近・反ソ同盟」
最初の転換は、1969年から1972年にかけて起きました。 1969年、中国とロシア(旧ソ連)の間で国境衝突(ダマンスキー島衝突事件)が発生しました。この通常戦での衝突において、軍事力で圧倒的に優位に立つソ連は、保有する中距離核ミサイルをすべて中ソ国境地帯に移動させ、さらに核弾頭を満載した戦略爆撃機を中国上空に絶え間なく威嚇飛行させました。「いつでも中国を核攻撃して破滅させる準備ができている」という、生々しい核の脅迫を中国に突きつけたのです。
この最大の危機に直面した毛沢東や中国指導部は、「このままではソ連に完全に潰されてしまう。ソ連を抑え込むためには、何としてもアメリカと国交を回復して協力関係を築くしかない」と判断しました。 そこから中国は死に物狂いでアメリカへの外交的アプローチを繰り返し、1972年のリチャード・ニクソン大統領の劇的な訪中と、その後の「上海コミュニケ」の発出へと結びつけたのです。
これ以降、アメリカのペンタゴンやCIAは、ソ連を牽制するための仮想同盟国として、中国に対して巨額の軍事援助を公然と開始しました。中国はアメリカの力を利用してソ連の核の脅威を退けることに成功したのです。
第2段階(1979年〜):鄧小平の「改革開放」と西側技術・資本の吸収
2回目の転換は、1979年に起きました。 1976年に毛沢東が死去したことで、毛沢東の狂信的な極左思想(文化大革命など)を大嫌いだった鄧小平(とうしょうへい)が、ついに実権を掌握しました。
鄧小平は極めてリアリスティックで賢い人間でした。彼は「中国を再び世界一の大国にするためには、文化大革命のような不毛な内紛をやめ、徹底的に経済を発展させなければならない。そのためには、まずはプライドを捨てて、日本やアメリカ、ヨーロッパといった資本主義国の優秀な企業をすべて中国国内に誘致し、彼らの持つ高度なテクノロジー、巨大な資本、そして洗練された経営ノウハウをすべて無慈悲に吸収し尽くすべきだ」という「改革開放路線」を打ち立てました。
これが空前の大成功を収め、1980年代、1990年代、そして21世紀の最初の10年間にかけて、中国経済は人類史上最も凄まじい大成長を遂げ、今日の巨大な国力の土台を築き上げたのです。
第3段階(1991年〜):ソ連崩壊後の「米国仮想敵視とA2/AD建設」
3回目の転換は、1991年に起きました。 この年、最大の脅威であったソ連帝国が突如として崩壊し、同時に「第1次湾岸戦争」が勃発して、アメリカ軍がイラク軍を圧倒的なハイテク兵器で一方的に叩きのめすのを鄧小平は目の当たりにしました。
鄧小平の凄まじいリアリズムはここにあります。 彼は、それまで約10年間にわたり「アメリカの資本や技術を大歓迎する」という新米協調ポーズを取っていたにもかかわらず、ソ連が消滅した瞬間、即座に次の国家方針を決定しました。 「我々にとっての次のナンバーワンの敵(仮想敵国)は、世界唯一の超大国となったアメリカである。今後は、アメリカに対抗するための本格的な軍事力を極秘裏に建設しなければならない。」
そこで鄧小平や、彼の後を継いだ江沢民は、表面的にはアメリカと友好を装って貿易を増やして経済依存を高める(エンゲージメント・ポリシー)一方で、軍事的には極めて画期的な防衛戦略を採用しました。それが、米海軍が「第一列島線(日本から台湾、フィリピンを結ぶライン)」を越えて中国の近海に進入してくることを絶対に許さないという、「A2/AD(接近阻止・領域拒否:Anti-Access/Area Denial)」戦略です。
具体的には、米海軍の空母を破壊するための巨大な「ミサイル戦力」を集中配備する。
中国の旧式な潜水艦をすべて最新の静粛型潜水艦に置き換える。
米艦隊の侵入を防ぐため、懐中嫌(機雷)の配備数を世界第一位にする。
この3つの軍事建設を猛烈な勢いで開始したのです。これが、2008年まで約17年間続いた第3段階の戦略でした。
中国が貧しく、日本の助けを必要としていた時代、私たちが中国を訪れると、彼らは本当にニコニコして何でも歓迎してくれ、非常に親切に食事を提供したり講演会を開いてくれたりしました。しかし今思えば、彼らは全員が「国家の目標」を完璧に理解した上で、その役回りを完璧に演じていたわけですね。 大学の先生から、産業界の指導者、一般の役人に至るまで、「今は日本から技術や資金を謙虚に学ぶ時期である。しかし、国力が十分に成長した暁には、日本は警戒すべき仮想敵国となるのだ」という共通の長期戦略を全員が腹の中に収めた上で、見事に成長しきったところで、予定通り日本の技術や資金を切り捨てていきました。本当にたいした戦略性ですね。
まさにその通りです。彼らは国家のグランド・ストラテジーという大きな「物語」を全員で共有して動いているのです。
第4段階(2008年〜):リーマンショック後の「地域的覇権(リージョナルヘゲモニー)奪取」
4回目の転換は、2008年に起きました。アメリカ発の「リーマンショック(世界金融危機)」が発生したタイミングです。
中国政府は、ウォール街の強欲な金融業者たちがイカサマな金融商品を世界中に売りさばいて世界恐慌を引き起こしたのを見て、「アメリカという国は、金融制度の根幹から腐敗しきっている。このような国に世界秩序を任せておくわけにはいかないし、アメリカの先は長くない」と見限りました。 そして、これまでの「アメリカを過度に刺激しないように空母艦隊の建設を自制する(リフレインする)」という方針を破棄し、アジア地域における圧倒的な主導権を握る「リージョナル・ヘジェモニー(地域的覇権)」の奪取へと踏み切りました。
具体的には、
敵地や遠方に軍事力を投射するための「航空母艦艦隊」の本格的な建設を開始(現在すでに3隻を保有し、4隻目の原子力空母を建造中。将来的には4〜6隻の空母艦隊を運用する計画)。
AIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立。
「一帯一路(ベルト・アンド・ロード・イニシアティブ)」の推進。
これらは表面的には単なるインフラ整備や経済プロジェクトに見えますが、その地政学的な本質は、周辺国との間に経済的な「総合依存関係」を構築し、それらの国々を中国の絶対的な勢力圏(経済的・政治的従属下)に取り込むための、極めて高度な地政学的戦略なのです。
第5段階(2017年〜現在):習近平による「世界一の覇権(グローバルヘゲモニー)の確立」
そして5回目の転換が、2017年に起きました。習近平国家主席が完全に権力を掌握し、公式にその本音(野望)を露わにしたタイミングです。
彼らの現在の最終目標は、もはやアジア地域に留まりません。 「2045年から2049年までに、アメリカを完全に引きずり下ろし、中国が名実ともに世界第一位の超大国(グローバル・ヘゲモニー:世界最強の帝国)になること」です。
この目標を達成するために、彼らにとってどうしても必要な中間地政学的ステップが、「東アジアからアメリカの軍事力を完全に排除すること」、そしてそのために「日米同盟を骨抜きにして完全に無力化(弱体化)すること」なのです。
中国が台湾を武力統一(奪取)しようとした際、同盟国であるはずの日本が、アメリカの核の傘がないことを恐れて「怖くて一切手出しができない状態」に追い込む。これが、彼らが現在実行している第5段階のグランド・ストラテジーの核心部分なのです。
5.3 国力の物理的指標:購買力平価(PPP)の実質経済規模
中国の実質経済規模はすでに米国を「25%」凌駕している
ここで、日本国民が中国の国力を測る上で陥っている、致命的な勘違いについて指摘しておかなければなりません。
日本のメディアや経済評論家は、一般的な為替レート(名目為替レート)で換算した「名目GDP」だけを見て、「中国の経済規模はまだアメリカよりも30%も小さい。さらに中国は経済危機だからもう大したことはない」と、非常に楽観的で根拠のない議論を展開しています。
しかし、国家の真の「軍事力拡張能力(戦争継続能力)」を決めるのは、そうした表面上の為替レートで計算した名目GDPではありません。実際の物価の差を考慮し、その国の中で実際にどれだけの財やサービスが実質的に生産され、消費されているかを示す「購買力平価(PPP:Purchasing Power Parity)ベースの実質経済規模」こそが、国力の真の物理的指標なのです。
ウクライナ戦争が始まった際、日本のメディアは「ロシアの名目GDPは、イタリアや韓国並みの小国に過ぎない。だから、西側の経済制裁ですぐにロシア経済は崩壊し、戦争を継続できなくなる」と大合唱していました。しかし現実は、ロシアはビクともせず、むしろ兵器の生産量を何倍にも増やして西側を圧倒していますね。
それこそが、名目GDPという経済指標の欺瞞を証明する最高の例です。 ロシアの実質経済規模(PPP)は、表面上の名目GDPの「2倍以上」の規模を持っています。だから西側の経済制裁が全く効かなかったのです。
そして、中国の場合、その非対称性はさらに圧倒的です。 名目GDPで見れば中国はアメリカより30%小さいですが、購買力平価(PPP)の実質経済規模で見れば、中国の現在の実質GDPは、すでにアメリカのそれを「25%以上」も凌駕して超大国化しているのです。
製造業・重工業の生産能力は米国の「2倍以上」という冷徹な現実
さらに恐ろしいことに、戦争に必要な鉄鋼、化学、造船、機械などの「重工業および製造業の生産能力」を比較すると、現在の中国の生産力は、アメリカの「2倍以上」の圧倒的な規模を誇っています。
軍備拡張競争、あるいは実際の戦争における消耗戦において、勝敗を決めるのは「金融マネーの数字」ではなく、物理的に「どれだけ多くの弾薬、ミサイル、軍艦を毎月製造できるか」という製造工業の実力そのものです。 実質経済規模で25%上回り、重工業生産力でアメリカの2倍以上の実力を持つ中国が、本気で国家資源を軍備増強に投入し始めた場合、アメリカがこれと軍拡競争を行って勝ち抜くことなど、経済の物理的法則から見て絶対に不可能です。
これが、今の日本が対峙している、中国という巨大な帝国の「冷徹な正体」なのです。
5.4 日本の「思考停止」と落としどころ探しの不毛
「落としどころ」という妥協論の甘さ
このような恐ろしい戦力差と、中国が50年間かけて緻密に実行してきた「五段階のグランド・ストラテジー」の冷酷な現実を目の当たりにすると、日本のテレビやYouTubeなどの議論の浅さに、本当に頭を抱えたくなります。 日本の番組に登場する評論家たちは、中国との間で何か問題が起きるたびに、「この対立の『落としどころ(妥協点)』はどこになるでしょうか」とか「お互いに大人の対応で話し合って解決すべきだ」といった、極めて幼稚で目先の取り繕いばかりを議論しています。
本当に見ていてお手上げになるほど、信じられないほど甘い議論です。 中国は今、国家の命運と2500年のプライドをかけて、アメリカを東アジアから排除し、世界第一位の覇権を奪取するための「第5段階のグランド・ストラテジー」という巨大な地政学的プログラムを冷酷に実行している最中なのです。
それに対して、日本側が「目先のごまかし」や「話し合いの妥協」による、小手先の「落としどころ」など探したところで、向こうがその巨大な戦略の歩みを止めるわけがありません。
日本がこの巨大な帝国の脅威に対抗し、生存を確保するためには、私たち自身もまた、「50年先、100年先を見据えた真の『グランド・ストラテジー』を国家として構築し、それを裏付ける独自の本格的な自活的軍事能力(自主防衛能力・核抑止力)と経済力を、戦略的に整備して立ち向かう」こと以外に、生き残る道は絶対に存在しないのです。 目先の小手先の妥協で乗り切れると考えること自体が、完全なる「思考停止」であり、国家を滅亡へと導く亡国の態度なのです。
第6章:国際政治の冷徹な原則:バランス・オブ・パワーとツキディデスの罠
6.1 道徳なき「アナーキー(無政府状態)」としての国際社会
「好き嫌い」や「道徳的正しさ」で語られる日本の幼稚な外交論
本当に、現在の日本における国際政治や外交の議論は、感情論に終始していますね。 私もウクライナ戦争が始まった当初、「中国に対する将来的な脅威に備えるためには、日本はロシアとインドを味方に引き入れ、挟み撃ちにする形で中国に対する圧力を緩和させる『遠交近攻(えんこうきんこう)』のバランス・オブ・パワー戦略を今すぐ取るべきだ。だから感情的にロシアだけを敵視して制裁に血道を上げるのは国益を損なう」と主張しました。 そうしたところ、日本国内のあらゆるメディアや知識人から、「ロシアは不法な侵略を行った極悪非道な国だ。そんな悪を擁護するのか」と、凄まじい「袋叩き」に遭いました。 彼らは地政学的な戦力バランスや日本の生き残り戦略という冷徹な視点を全く持たず、ただ「ロシアは悪い国だから徹底的に叩き潰せばいい」という感情論だけで動いているように見えます。
地政学の歴史から見れば100%正しいものです。 聞き手も私も、国際政治を「バランス・オブ・パワー(勢力均衡)」の視点から冷静に見つめています。
しかし、日本の言論界は、左翼の人物も、そして威勢のいい保守派の大部分も、国際政治の本質が全く分かっていません。 彼らは、国際政治をまるで「小学校の生徒会における個人の喧嘩」や「ご近所のトラブル」と同じ次元で捉えています。 「あの人が悪い」「あの人は正しい」「私はあの国が嫌いだ、あの国が好きだ」 そのような幼稚な道徳的正義感や主観的な感情だけで大国の外交を議論し、国家の生存戦略を決定しようとしているのです。これは国際政治学や外交史、防衛学を何一つ真面目に勉強したことがない素人による、極めて危険で無責任な態度です。
世界政府、世界警察の不在というアナーキーの現実
国際政治学の根本的な大前提は、「国際社会は『アナーキー(無政府状態)』である」という冷酷な事実です。 私たちの暮らす国内社会には、法律があり、警察があり、裁判所があって、悪いことをした個人や組織は国家の暴力装置によって処罰されます。しかし、国家のさらに上部には、
法を強制する「世界政府」は存在しない。
秩序を維持する「世界警察軍」は存在しない。
悪を裁く「世界裁判所」は機能しない。
これが、国際社会の本質的な実態なのです。 したがって、どれほど国家間で立派な平和条約や内政不干渉の取り決め(ウエストファリア条約や国連憲章など)を結んだところで、ひとたび「圧倒的な武力と実力を持つ大国」が、自国のエゴや生存のために「弱い小国」を力ずくで叩きのめし、踏みにじってしまえば、国際社会にはそれを物理的に差し止める強力な第三者機関などどこにも存在しません。弱い国はただ、泣き寝入りさせられ、蹂躙されるだけなのです。
6.2 ツキディデスが描いた「ペロポネソス戦争」の教訓
「強者は欲するままに行い、弱者は強いられるがままに苦しむ」
古代ギリシャの歴史家であり、アテネの将軍でもあったツキディデス(Thucydides)は、しばしば「世界で最初の国際政治学者(リアリスト)」と呼ばれます。 彼は、約2400年前に発生したアテネとスパルタの全面戦争を描いた『ペロポネソス戦争』という不朽の名著を残しました。
この名著の中で、ツキディデスはアテネの使節が弱小なメロス島の住民に対して言い放った、国際政治の最も核心的な真理を書き残しています。 「ザ・ストロング・ドゥ・ホワット・ゼイ・キャン、アンド・ザ・ウィーク・サファー・ホワット・ゼイ・マスト(強者は欲するままに行い、弱者は強いられるがままに苦しむ)」
大国(強者)は自国の実力によって何でも自分のやりたいようにやり、弱小国(弱者)は、その強者から与えられる過酷な運命をただ黙って受け入れ、苦しむしかない。これが、2400年前から現代の21世紀に至るまで、1ミリも変わっていない国際政治の冷酷な「真実の鉄則」なのです。
この鉄則を無視し、「世界は話し合いで解決できる」とか「アメリカが絶対に助けてくれる」といったおめでたいお花畑的妄想に耽り、戦略的な国家のグランド・ストラテジー(勢力均衡外交)の構築に失敗した国は、歴史上、滅びる以外に道はありません。
国家の死亡率:バランス・オブ・パワーに失敗した国家の「22%」が滅亡する
客観的な歴史統計を示しましょう。 最近の150年間の世界歴史を詳細に調査すると、「国家の死亡率」は、なんと「22%」に達しているというデータがあります。
世界に存在する国家のうち、「5つに1つの国家」は、バランス・オブ・パワーの維持や地政学的な戦略構築に失敗し、他国に侵略・併合されるか、崩壊して地球上からその存在を消し去っているのです。 生存は当たり前の権利ではなく、冷徹な戦略的努力によってのみ、かろうじて勝ち取れる特権なのです。
6.3 徹底的なリアリストとしての中国、リアリズムを失った日本とドイツ
ミアシャイマーが語る「中国人の本性:全員が根っからのリアリスト」
これに対して、日本が対峙している中国の指導部や知識人、官僚たちは、例外なく「徹底的なリアリスト(地政学的現実主義者)」です。彼らの中に、お花畑的な平和主義など一片も存在しません。
シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授が、私に非常に興味深い感想を語ってくれたことがあります。 「私はアメリカ国内でリアリズムを説いても、リベラルホープの強いアメリカ人にはなかなか理解されず孤立している。しかし、中国を訪れて現地の学者や官僚たちと議論をすると、まるで自分の故郷に帰ってきたかのように、驚くほど話がスムーズに通じるのだ。 なぜなら、中国人は大学の教授から政府の高級官僚に至るまで、全員が『常に国際政治をバランス・オブ・パワー(勢力均衡)の冷徹な観点から、自国が有利な立場に立つためにはどうすべきか』というリアリズムだけで思考しているからだ。彼らは全員が骨の髄からのリアリストなのだ。 対照的に、現在のドイツや日本に行くと、本物のリアリストがほとんど絶滅しており、おめでたい空想論ばかりを語るため、全くまともな戦略的会話が成り立たないのだ」と。
ビスマルクの苦悩:プロイセン人の9割がバランス・オブ・パワーを理解できなかった現実
ドイツ人は学術的にも頭が良く、素晴らしい民族だというイメージがありますが、国際政治におけるバランス・オブ・パワー外交においては、意外にも歴史的に大きな失敗を繰り返していますね。
その通りです。実はドイツ人も、伝統的にこのバランス・オブ・パワー外交が極めて下手な民族なのです。
19世紀後半、天才的な外交戦略によってドイツ統一を成し遂げた「鉄血宰相」オットー・フォン・ビスマルク(Otto von Bismarck)は、その書簡の中で、同胞であるドイツ人について非常に辛辣な愚痴を書き残しています。 「プロイセン人(ドイツ人)の9割は、バランス・オブ・パワー外交の本質というものを全く理解していない。 彼らは猛直(猪突猛進)な態度で、ただ感情的に『どの国がいい国か、悪い国か』を勝手に決めつけ、自分の嫌いな『悪い国』は力任せに徹底的にぶっ潰してしまえばいいと考え、それで万事が解決すると思い込んでいる。 しかし、自分の嫌いな国をただ壊滅させたからといって、その周辺の勢力均衡が崩れれば、結果として自国がさらに深刻な生存の危機に追い詰められるという地政学的連鎖が、彼らには全く理解できないのだ」
ビスマルクは、嫌いな国であっても、全体の勢力バランス(調和)を維持するために、あえて過度に追い詰めず、中立に保つという極めて高度な曲芸のようなバランス外交を展開しました。しかし彼の引退後、彼のような知性を持たないドイツの指導者たちは、国民の感情論に押し流されてバランス外交を放棄し、第一次世界大戦、第二次世界大戦へと突入して、国家を自滅・崩壊へと導いたのです。
今の日本人の「ロシアを徹底的に叩き潰せ」という極端な言論空間は、まさにビスマルクが嘆いた「プロイセン人の9割の愚かさ」と完全に重なり合っています。
6.4 日本の生存を賭けた戦略の再構築
ロシアの知識人モフェイ・ボルダチェフが主張する「日独核保有による世界安定論」
ここで、極めて興味深いロシアの知識人の見解を紹介します。 ロシアの極めて高名で、政権中枢にも近い国際政治学者であるモフェイ・ボルダチェフ(Timofei Bordachev)が、最近になって非常に画期的な論文を発表しました。
その内容は、「現在の世界秩序を安定させるためには、むしろ日本とドイツが真の独立国となり、独自の核武装を遂げたほうがロシアにとっても好都合である」という、極めて現実的な戦略論でした。
なぜロシア人が、日独の核武装を歓迎するのか。その軍事ロジックは極めて明快です。 「現在、日本もドイツもアメリカの完全な『属国(手下)』であり、自前の安全保障能力を持たないため、アメリカから『ロシアを敵視しろ、ウクライナを支援しろ』と命令されれば、国家の生存を害してでも何兆円、何十兆円という巨額の資金や武器を相手に貢がせられている。 しかし、日本とドイツが独自の核抑止力を持ち、真の『主権国家』として自立したならば、彼らはアメリカの理不尽な命令に対して『我々は自前で国を守れるので、アメリカの一方的な戦争(代理戦争)に国力を浪費するつもりはない』と、明確に中立主義外交を宣言して拒絶できるようになる。 日独がアメリカの代理戦争の道具(財布)にされることを拒み、自律的な中立国家になってくれたほうが、ロシアにとってもアメリカの一極覇権の圧力を減らすことができ、はるかに都合が良いのだ」
この指摘こそが、国際政治におけるバランス・オブ・パワーという「チェスゲーム」の真の奥深さを示しています。敵対しているロシアの知識人のほうが、対米自立を恐れる日本の政治家や官僚よりも、はるかに知的に日本の生存戦略(核武装と対米自立)の必要性を理解しているのです。
結び:生存率「22%の消滅国家」に入らないために
本日、師匠から、1992年のアメリカの極秘戦略の失敗から始まり、現代のミサイル・ドローンの冷酷な戦力差、崩壊している核の傘の嘘、そして中国が50年間かけて緻密に実行してきた「五段階のグランド・ストラテジー」の全貌に至るまで、極めて体系的で知的な講義をいただきました。
私たち日本人が今、真剣に考えなければならないのは、感情的な「好き嫌い」や「お花畑的な妥協」で日々をやり過ごすことではありません。 このまま思考停止してアメリカに従属し続ければ、近いうちに発生するであろう有事において、アメリカに見捨てられ、中国の圧倒的な軍事力の前に、日本という国家自体が、歴史統計が示す「消えていく22%の滅亡国家」の側に叩き落とされてしまうという、極めて現実的な危機なのです。
日本の子供たちの命と、この国の永続的な安全を守るために、私たちは一刻も早く、感情に支配された幼稚な議論を脱し、客観的なバランス・オブ・パワーのリアリズムに基づいた「国家独自のグランド・ストラテジー(自主防衛能力と核抑止力の構築)」を真剣に描き、実行に移さなければなりません。

